Piano Trio Concert

安井耕一

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J.ハイドン:ピアノ三重奏曲第25番ト長調 Hob.XV:25『ジプシー』
L.v.ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番ハ短調 Op.1-3
F.シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番変ロ長調 D.898

安井耕一 piano
高辻瑤子 violin
安井総太郎 cello
2021年10月21日 札幌ふきのとうホールにおけるライヴ録音

Producer: 内藤 晃
Recording, Mixing, Mastering Engineer: 夷石徳男
Piano Technician: 川岸秀樹
Piano: Bösendorfer Model 225

室内楽の愉しみ

音楽は素晴らしい。とくに室内楽を演奏する時に音楽する喜びが一番味わえるようだ。音楽する行為は人間の善意を集めたものであるということがよくわかる。音楽を指導する方法としても室内楽は効果がある。音楽する行為を客観的に捉えられるし、技術的なものの本質が何処から来るものかが分かってくる。ソリスト的な華やかさを磨くことをやりたがるのは若い時には致し方ないことではあるが、音楽を学ぶ上でアンサンブルは大切であり、本当の音楽家を育てる一番の近道である。

私は伴奏や室内楽の指導を多く経験した。日本の大学にはカリキュラム上に制度として無いから人材も育たないが、ヨーロッパではコレペティトゥアという職業があって、主にピアニストが務めるのであるが、彼らは音楽を作る事を教えるのが役目である。もちろんその力量にはピンからキリまである。音楽学校にはただ伴奏してお茶を濁しているような者も多いが、高い見識と技術的な洞察力を持った優れた指導者もいる。優れた技能を持つ器楽奏者は楽器を扱う技量を伝授できるが、全体を把握して指導するには指揮者的な洞察力を持つピアニストが一番適している。私は音楽大学で教えている間、そういうことがやりたかったのだが、大学のカリキュラムの中にそういうものが無かったので出来なかった。そのことを残念に思っている。しかしそれでも、伴奏法とかアンサンブル指導とかでは学生から音楽を引き出すことが面白かった。芸大での副科ピアノの授業では、学生と音楽の話をするうちに次第に学生が専門の楽器を持ってきて演奏するようになった。さすがに芸大生は意識が高いから質問は真剣であったし大変に面白かった。そういう経験を重ねてきたから若い人を指導しながら室内楽を演奏することは楽しみなことなのである。それが将来の良い音楽家を育ててくれるのであればこれほど嬉しいことはない。

このCDは2021年10月21日 札幌ふきのとうホールにおけるライヴ録音である。私の息子も音楽家を目指し修業中である。親子で室内楽を楽しめることは幸せなことであると思う。コロナ感染症の広がりにより、卒業後の一番大事な時期に演奏機会が奪われていたので、敢えて積極的に音楽会の場を提供したかった。ヴァイオリンの高辻瑶子さんは桐朋学園大学大学院を修了した息子と同期の音楽家だ。一度演奏を聞き知性的で清潔な音楽をしていて好ましかったので、誘ってみたのだった。

曲はハイドン、ベートーヴェン、シューベルトの名曲である。71歳の老ピアニストは若者たちとの演奏を十分に楽しんだことを述べておきたい。音楽工房“響”はこれからも良い声楽家、室内楽奏者を育て、紹介してみたいと思っている。

安井耕一

ピアノ

安井耕一

札幌に生まれる。道立札幌南高校を経て、東京芸術大学音楽学部卒業。ピアノを横谷瑛司、水谷達夫各氏に師事、歌曲伴奏については戸田敏子氏の薫陶を受ける。1977年から85年まで西ドイツ、リューベック国立音楽大学にてコンラート・ハンゼン氏のもとで研鑽を積む。ハンブルクをはじめ各地で演奏会に出演する傍ら、同大学で伴奏講師も勤める。帰国後は札幌、東京などでリサイタルを重ね、室内楽、歌曲伴奏等活動を続けている。音楽工房 “響”を主宰し各地でセミナーや講座を開催し若手の育成にも情熱を注ぐ。 1993年から2007年まで東京芸術大学非常勤講師、2006年より国立音楽大学・大学院教授を勤める。